消費者契約法


 本来、契約というのは当事者の自由な意思でもって行われるものです。それが例えば、大家さんとの家賃交渉、あるいは会社間の取引契約など、お互いの立場が対等、あるいはそれに近い状態であれば、購入者の立場でも強気で交渉も可能でしょうし、Noに対してはっきりNoとも言えるでしょう。お互いの信頼もあります。気付いたら契約していた、無理やり買わされたなんていうことはあまりないでしょう。ところが、契約がいつも対等とは限りません。相手の顔が見えない、交渉の余地がない、無理やり押し付けられた、よく分からないから任せたら勝手に事が進んでしまった、というようなことは決して珍しいことではありません。その様な力関係の不均衡から弱者である消費者を保護するための法律、それが消費者契約法です。

消費者契約法と民法

 従来から、契約を規律する、消費者を保護するために、民法において、「詐欺」、「脅迫」、「錯誤」による契約に対しては救済措置が規定されています。しかし、消費者契約法はより一層、消費者にとって有利となるような規定がされています。

まず第1に、要件が緩和されたということがあげられます。例えば、民法における「詐欺」には、要件として故意が立証されることが求められていますが、消費者契約法においては故意・過失は問題とされないか、あるいは緩和されていることが特徴です。また、脅迫についても同様に要件が緩和されています。

民法

消費者契約法


「詐欺」=事業者の故意の立証が必要(第96条1項)

故意・過失の立証は必要なし(第4条1項)故意の要件が要求されるが、緩和(第4条2項)


「脅迫」=基本的に物理的な圧力に基づく行為

物理的だけでなく心的なプレッシャーをも含む(第4条3項)

また第2に、取消についても、遡及効果が認められており、民法においてはサービスが提供されていれば、該当する分の代金支払いが要求されているのに対し、消費者契約法では支払いが免除されます。つまり、サービスを先に無理やり提供し、その分だけでも支払いを受けようとする事業者に対しても、支払いをする必要がなくなりました。

ただし、このように消費者有利な規定が設定されている分、取消の時効は困惑の場合は困惑状態から脱することができた時から6ヶ月、あるいは契約締結時から5年とされていて、意思表示から20年以内であれば取消が認められている民法の詐欺・脅迫の場合とは大きく異なります。

民法

消費者契約法


原状回復義務の発生=サービスなど返還できないものであれば、該当分については代金を支払う

原状回復が困難な場合、たとえサービスを享受したとしても、代金返却の必要なし

 3に、不当条項の無効となる契約条項について、具体的にどのような条項が該当するかが明示されています。民法のもとでは、信義則にもとづいて個別に判断されていましたが、具体的に提示されることによってどのような条項が違反となる可能性が高いのかが分かりやすくなりました。

民法

消費者契約法


信義則に基づく個別分析


具体的な、無効となりうる条項の提示


消費者契約法の内容

消費者契約法は大きく2つの効果を発揮することができます。契約の解約不当条項の無効の効果です。契約の解除というのは、自分が不本意な契約をしてしまい、その契約から開放されたいときに契約の解除をするための手段となるものです。不当条項の無効、というのは事業者にとって有利になる条件付の契約を無効にする効果です。つまり、たとえ契約の中に事業者有利となる条項が含まれていたとしても、それが効力を持たないようにするための条項です。以下で、それぞれがどのように消費者契約法で規定されているのかについて簡単に説明していきます。もっとも、消費者契約法は無条件で消費者を保護するものでありません。消費者契約法第3条にも述べられているように、消費者に対しても契約に際して誠実に対応することが望まれています。そのため、契約締結には十分注意して行うことが必要とされます。

契約の解約

 消費者(購買者)による契約の解除を申し込むことができる場合は消費者契約法第4条に規定されています(→条文)。第4条では消費者が契約解除を申し込むができるのに条件が設定されています。

それは、@事業者が契約の重要な事項について偽りを述べた場合、または、A事業者から不確定要素について断定的な判断がなされた場合で、それによって消費者が誤解をした場合です。例えば、あるパソコンのソフトが初心者でもすぐに使えると告げられており、購入したが、別に必要なソフトを購入する必要があったというような例が@です。Aの例としては、絶対成績がよくなる、と銘打って学習教材を売りつけるような場合です。

また、Bメリット・デメリットがある賞品に対してメリットのみを伝え、デメリットについては述べないような場合です。例えば、強力で、広い部屋も簡単に涼しくできるという冷房機を進められたが、実は電力消費量が大きく、その冷房のために他の機器が使えなくなってしまう、というような場合は当該事実を知っていれば購入しなかったということになり、Bに該当します。

C事業者が撤退しないために契約を結ばざるを得なかった場合、逆に、D撤退したい意思を表示しているにもかかわらず、開放させてもらえないがために契約を結んだような場合、消費者が事業者の行為によって困惑したような場合は契約の解約が可能です。例をあげますと、保険の勧誘で、断っていて帰ってもらうように訴えていたのにも関わらず、契約を頂くまで帰りません、と帰る気配がないので契約を結んだというのがC。逆に、契約を頂くまで帰らせません、と保険会社の事務所から出ることを認めてくれないような場合がDです。

このような場合に第4条に基づいて契約を解約することができます。

不当条項の無効

 契約の内容に、事業者に有利な、あるいは消費者にとって不利益となるような条項を入れることは消費者にとって不利な契約となります。そのような契約を締結することから消費者を保護するために、事業者が有利に契約内容を策定するのを防ぐのが不当条項の無効という消費者契約法の効果です。消費者契約法第8条以下では、無効とされる契約の具体例を提示しています(→条文)。

消費者契約法では基本的に、損害賠償責任の全部または一部を免除する免除条項は認められません。@債務不履行の場合の損害賠償の全部Aまたは一部B債務履行の際の不法行為による損害賠償の全部Cまたは一部D契約物に隠れた瑕疵があった場合の損害賠償免除条項が認められません。例えば、ピアノ運送業者が依頼されていたピアノを運搬してくれないために、その物品が送り先に到着せず、結果的に目的が達成されなかった場合(例えば演奏会が予定通り開催できなかったなど)の損害賠償免除条項は無効になります(@・Aのケース)。また、ピアノ運送会社がピアノ運送中にピアノを損傷したとしても、損害賠償を10万円までとする内容の契約条項も無効です(B・Cのケース)。事業者が、自己が販売した商品に関して、欠陥が後から発覚したとしても、その場合に対する代金返金、あるいは修理費を負担しない旨を規定するような条項も同様に無効とされます(Dのケース)。ピアノ購入の例で言えば、購入した後にピアノに欠陥があることが発覚したとしても、修理費は負担しないとする契約条項は無効です。

消費者契約法第9条では、契約解除や履行遅滞の際の事業者への損害賠償、違約金の規定について一定の規制を設けています。E契約の損害賠償、違約金が同種の他の契約に比べて著しく逸脱している場合F購入者が代金を期日に間に合わずに遅延した場合に、超過した日数×14.6%以上の割合の遅延損害金を課すような条項が禁止されています。第10条では、その他消費者を不利にさせるような条項について、広く公正に判断して無効になる可能性が明記されています。

 以上のように、消費者契約法は事業者対消費者という立場の不均衡からくる消費者への不利から消費者を救い、健全な契約が締結されることを目指しています。しかし、消費者契約法の保護があったとしても、契約を締結する場合に、契約内容をしっかり確認して契約することがトラブル回避のための最も有効な手段でしょう。


第四条 

1 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

 二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。

 二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。

4 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう。

 一 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容

 二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他の取引条件

5 第一項から第三項までの規定による消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

第八条 

1 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

 一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項

 二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項

 三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項

 四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の一部を免除する条項

 五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項

2 前項第五号に掲げる条項については、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。

 一 当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

 二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合

第九条 

次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分

 二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分