会社法の改正 〜最低資本金の廃止・株式会社と有限会社の統合〜


1.      概要

1)目的

平成18年5月1日に商法が改正され、新しい会社法が誕生しました。近年における社会経済情勢に関する変化への対応等の観点から、会社に係る各種の制度のあり方について体系的かつ抜本的な見直しを行うと共に、商法第2編・有限会社法・株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律等を分かりやすく再編成して新たな法典を創設することが新会社法の目的とされています。

2)会社法の現行制度に比べての変更点

会社法において、現行制度と比べて主に4つの大きな変更点があります。

@    利用者の視点に立った規律の見直し

中小企業や新たに会社を設立しようとする者の現状を踏まえ、会社の法制度を会社の利用者にとって使用しやすいものとするために、各種の規制の見直しがされました。具体的には最低資本金制度の廃止や株式会社と有限会社の統合(両後述)などが挙げられます。

A    会社経営の機動性・柔軟性の向上

会社経営の機動性・柔軟性の向上を図るため、株式会社の組織再編行為や資金調達に係る規制の見直し、株主に対する利益の還元方法等の合理化を行うと同時に、取締役等の責任に関する規律の合理化を図って取締役等の積極的な経営をサポートする狙いがあります。

B    会社経営の健全性の確保

利用者にとって使用しやすいものにすると同時に、株主及び会社債権者の保護を図るため株式会社に係る各種の規制が見直されました。

C    その他

その他合同会社(LLC)・有限責任事業組合(LLP)の創設や、特別清算制度の見直しなどがされています。

LLC・LLPについてはこちらを参照

この中でも特に社会に影響を与えると考えられる「最低資本金制度の廃止」、「株式会社と有限会社の統合」について以下説明していきます。

2.      最低資本金制度の廃止


(1)   最低資本金制度の廃止

改正前の商法において、株式会社の設立には1000万円(=最低資本金)以上の出資が必要とされていましたが、より容易に株式会社の設立ができるようにするため、この出資額規制を撤廃しました。これにより出資額が1円でも会社が設立できるようになりました。これには、会社を作りやすくすることで経済の活性化を図ろうとする趣旨があります。

ただし、改正前の商法が最低資本金制度を置いていたのは、
@    詐欺的な設立を防ぎ、個人が気軽に公開有限責任会社を設立することを思いとどまらせること
A     債権者、特に不法行為債権者を保護する必要がある

という趣旨があり、この規制が緩和されてしまうのではないかという批判もあります。これに対しては、設立される会社の配当金に関する制限がつき、純資産(総資産から負債合計金額を控除した額)が300万円未満の場合には配当ができないという制限が設けられています。

また、今まで最低資本金規制の特例措置として資本の額が1円でも会社の設立が許容されていた確認会社においては、設立の日から5年以内に最低資本金(確認株式会社は1000万円、確認有限会社は300万円)を満たす必要があり、満たすことができない場合は解散することが定款で定められ、その旨が「解散事由」として登記簿謄本に記載されていました。本改正により、確認会社についても、増資をする必要は無く、上記の定款の定めを取締役会等の決議で変更し、解散事由の登記を抹消する登記申請をすることにより、会社を存続させることが可能となりました。

確認会社についてはこちらを参照

(2)   事後設立規制の見直し

事後設立(会社成立前から存在する財産で、営業のために継続して使用するものを会社成立後2年以内に一定規模以上(現行法では資本の5%以上)の対価で取得すること)に係る検査役の調査の制度は廃止されました。

3.      株式会社と有限会社を一つの会社類型(株式会社)として統合

改正前の商法においては、会社の類型として大規模な事業を行うことが予定されている株式会社と、小規模な事業を行うことが予定されている有限会社という分類がされていました。しかし現実として小規模な事業しか行わない株式会社の数も多く、両者を区別する実益に欠ける事から今回の改正が行われました。

具体的には、株式会社と有限会社とを新たな会社類型として統合することにより、改正前は有限会社にしか認められていなかった、取締役の人数規制や取締役会・監査役の設置義務のない株式会社を認めることとしたものです。これにより、すべての株式会社について、必ず設置しなければならない期間は株式総会取締役だけとなりました。

また、会社法の施行時に既に設立されている有限会社、すなわち有限会社法上の有限会社は、会社法施行後は会社法上の株式会社として存続することとなります。そのために、定款変更や登記申請等、特段の手続は必要ありません。なお、既存の有限会社については、現行の有限会社に関する規定の適用を受け続けることもできるとし、負担がかからないよう配慮されることとなっています。

一方、株式会社と有限会社の規律の一本化が図られるといっても、株式会社の範囲が広がる分規律が細分化してくるので、その点では複雑化することにもなります。具体的には、譲渡制限株式であるか否か・大会社であるか否か・取締役会を設けているか否かなどで服する規制に違いが出てくることとなります。また、上記二点以外にも株式代表訴訟制度の合理化や内部統制システムの構築義務化など会社法は改正されました。


新会社法を活用して起業を考えている方や、会社の類型の変更を考えている方などにとって、このような制度の変更は知っておく必要がありますが、やはり独自にこれらを判断するのは不安ではないでしょうか。是非、お気軽に当事務所にご相談下さい。