●算定方法
1 後遺症による逸失利益
後遺症とは、「自動車事故による障害の治療が終了したときに残存するその障害と相当因果関係があり、かつ将来においても回復困難と見込まれる精神的または身体的な毀損状態であって、その存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの」※1をいいます。そして、逸失利益の算定は@労働能力の低下の程度、A収入の変化、B将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、C日常生活上の不便等を考慮して行います。具体的には以下の(1)の計算式を用いて算定されることになります。
※1 交通事故実務研究会『交通事故マニュアル−民事交通事件処理−』(ぎょうせい、2000)132頁。
(1)計算例
@有識者または就労可能者 基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 例)症状固定時の年齢が47歳で年収600万円の男子サラリーマンが傷害を負い、後遺症により労働能力が20%低下した場合。 6,000,000円×0.20×12.4622※1=14,954,640円 ※1 47歳から67歳までの就労可能期間20年間のライプニッツ係数 A18歳未満の未就労者 基礎収入額×労働能力喪失率×(67歳までのライプニッツ係数−18歳に達するまでのライプニッツ係数) 例)10歳の女子が傷害を負い後遺症により労働能力が20%低下した場合。 3,490,300円※1×0.20×12.2973※2=8,584,253円 ※1 平成15年女子労働者学歴計全年齢平均賃金 ※2 57年間のライプニッツ係数=18.7605(67年−10年=57年) 8年間のライプニッツ係数= 6.4632 (18年−10年=8年) 18.7605-6.4632=12.2973 |
(注)ライプニッツ係数
(2)労働能力喪失率
(3)労働能力喪失期間
@労働能力喪失期間は症状が固定した日が始期となります。未就労者の就労の始期は原則18歳としますが、大学卒業が見込まれる場合は大学卒業時が就労の始期となります。
A労働能力喪失期間の終期は、原則として67歳となります。症状固定した時から67歳までの年数が平均余命の2分の1よりも短くなる場合は、原則として平均余命の2分の1が労働能力喪失期間となります。
Bむち打ち症の場合は、後遺障害等級12級で5年〜10年、14級で5年以下が目安となります。(後遺傷害等級)
(5)生活費控除の可否
死亡逸失利益の場合とは異なり、原則として生活費を控除しません。
2 死亡による逸失利益
死亡による逸失利益は相続の対象となり、死亡者自身のために消費される生活費控除率が逸失利益から除かれる点に特徴があります。具体的な計算式を見ていきましょう。
(1)計算例
●算定方法 基礎収入額×(1−生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 @有識者または就労可能者 現実年収または学歴計あるいは学歴別の男女別平均賃×(1−生活費控除率)×67歳までのライプニッツ係数=逸失利益現価 例)年齢37歳の主婦の死亡逸失利益の場合。 3,490,300円※1×(1-0.3※2)×15.3724※3= 37,558,001円 ※1 平成15年女子学歴計全年齢平均賃金 ※2 女子(主婦、独身、幼児を含む)の生活費控除率は30% ※3 37歳から67歳までの就労可能期間30年間のライプニッツ係数 A18歳未満の未就労者 学歴計の男女別あるいは全労働者平均賃金×(1−生活費控除率)×(67歳までのライプニッツ係数−18歳までのライプニッツ係数)=逸失利益現価 例)年齢10歳の男子の死亡逸失利益の場合。 5,478,100円※1×(1-0.5※2)×12.2973※3=33,682,920円 ※1 平成15年男子学歴計全年齢平均賃金 ※2 男子(独身、幼児を含む)の生活費控除率は50% ※3 57年間のライプニッツ係数=18.7605(67年-10年=57年) 8年間のライプニッツ係数= 6.4632 (18年−10年=8年) 18.7605-6.4632=12.2973 |
(注)ライプニッツ係数
(2)就労可能年数
原則として67歳までとし、67歳までの就労可能年数と平均余命の2分の1のうち、長期の方を使用します。未就労者の就労の始期については、原則として18歳ですが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時となります。高齢者については、簡易生命表の余命年数※1の2分の1となります。
※1 詳しくは厚生労働省のHP参照して下さい(http://www.mhlw.go.jp/)。
(3)中間利息控除
中間利息の控除とは、被害者の将来得られるはずだった収入を、症状が固定した時の価値に換算することです。中間利息の計算方法はホフマン式とライプニッツ式があり、年5%の割合で控除されます。東京地裁はライプニッツ式を採用し、大阪地裁、名古屋地裁も東京地裁と同様の方式を採用することを決定しています。
(4)生活費控除率
死亡者がもし生きていれば当然生活費がかかります。死亡による逸失利益では基本的に3つの場合に分けてこの生活費分を差し引く割合が決まっています。
@一家の支柱の場合
1)被扶養者1人の場合は生活費控除率40%
2)被扶養者2人以上の場合は生活費控除率30%
A女子(主婦、独身、幼児を含む)の場合は生活費控除率30%
B男子(独身、幼児を含む)の場合は生活費控除率50%
なお、年金に対する生活費控除率は他の場合と比べ高くなる場合が多く見られます。
(5)年収の算出方法
逸失利益算定の基礎となる収入は、原則として事故前1年間の収入を基礎とします。しかし、将来、現実の収入以上の収入を得ることについて立証があれば、その収入額を基礎収入とすることができます。また、現実の収入額が賃金センサスによる平均賃金が安い場合で、平均賃金程度の収入を得ることができる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入として算定することができます。
基礎収入は主体によって算定の際に基礎とする収入が異なるため、以下では主体別に参考とされる収入について説明します。
1)有識者
@給与所得者
原則として事故前の収入を基礎として算定を行います。現実の収入が賃金センサスによる平均賃金よりも安い場合で、平均賃金程度の収入を得ることができる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入として算定することができます。若年労働者(およそ30歳未満)の場合、賃金センサスによる全年齢平均の平均賃金を原則として用います。
A事業所得者
申告額と実収入が異なる場合は、実収入を証明できる場合にはこれを基礎とします。所得が家族の労働や資本利得によって構成される場合、所得に対する本人の寄与の割合によって算定されます。現実の収入が賃金センサス以下の場合、平均賃金を得ることができる蓋然性があれば賃金センサスによることになります。
B会社役員
会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は認められます。しかし、利益配当の実質を持つ部分に関してはは消極的です。
2)家事従事者
賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者の全年齢平均の賃金額によります。有職の主婦の場合、実収入が平均賃金を上回る場合は実収入を基礎として、平均賃金を下回る場合は平均賃金を基礎として算定されます。なお、家事労働分の加算は認められにくいです。
3 無職者
@学生・生徒・幼児等
賃金センサスの産業計、企業規模、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額によります。大学生でなくとも、家庭環境、成績等から大学を卒業するとことが見込まれるとして新大卒の平均賃金によることを認めた事例もあります。
A高齢者・年金受給者等
就労の蓋然性があれば、賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、男女別、年齢平均の賃金額によります。
4)失業者
労働能力、労働意欲があり、就労可能性が認められる場合に認められます。再就職後の収入を基礎とし、特段の事情がない限り失業前の収入を参考とします。失業前の収入が小額だが平均賃金を得られる蓋然性が高い場合は賃金センサスによります。