会社設立と最低資本金規制の特例について

 平成15年2月1日開始の「最低資本金規制の特例」に基づき、従来は会社設立の際に必要とされていた最低資本金を準備せずとも会社を設立することができるようになりました。いわゆる1円会社が認められたことになります。ここでは、この特例が従来の会社設立の手続にどのような影響を与えるかということについて、説明したいと思います。


1.特例の対象=株式会社・有限会社

 特例が対象としているのは、株式会社と有限会社です。それぞれについて簡単に説明します。
 株式会社・有限会社双方とも出資者(=社員、株式会社なら株主)の責任は出資額までの有限責任しか負いません。会社財産が会社債権者に対する責任財産となり、社員は間接的な責任を負うことになります。簡単に言いますと、社員は会社の債務が増大したとしても、出資額以上の負担を負うことがない反面、一度会社に出資すると会社から資本を回収することができない、ということになります(他の社員などに譲渡することは原則として可能です)。
 株式会社と有限会社の違いは下の表のようになっています。細かい点で異なる部分は多いですが、ここでは代表的な違いをあげています。

株式会社 有限会社
 根拠法  商法  有限会社法
 社員数  上限なし  50名以下
 社員たる地位の譲渡  原則自由※1  ほかの社員への譲渡は自由だが、
 社員以外への譲渡は社員総会の
 承諾が必要
 執行機関  代表取締役  取締役(代表取締役は任意)
 監査役  監査役の設置が必要  設置は任意
 最低資本金※2  1,000万円以上  300万円以上

※1 例外としては、定款による譲渡制限(商法204条1項但書)、権利株の譲渡制限(商法190条)、株式発行前の譲渡制限(商法204条2項)があげられます。
※2 最低資本金については次の「2.最低資本金規則の特例」も併せて参照してください。


2.最低資本金規制の特例

2.1 「最低資本金規制の特例」

 上の表にあるように、従来は会社設立の際に、株式会社・有限会社それぞれに最低資本金が必要とされていましたが、平成15年2月1日より「最低資本金規制の特例」に基づいて最低資本金規制がなくなりました。つまり、株式会社についても有限会社についても、資本金が1,000万円あるいは300万円以下でも設立が可能となりました。ただし、会社設立後5年経過するまでに増資が必要となります。会社設立後5年経過するまでに株式会社ならば1,000万円、有限会社なら300万円の資本金を用意する必要があります。(「最低資本金規制の特例」に基づいて成立した会社は「確認会社」と呼ばれます。株式会社であれば「確認株式会社」、有限会社であれば「確認有限会社」ということになります。)


2.2 「最低資本金規則の特例」の条件

 新事業創出促進法第2条2項3号の「創業者」に該当する必要があります。「創業者」とは、「事業を営んでいない個人」で、2ヶ月以内に新しい会社を設立・事業開始を計画している人のことを示します。例えば、給与所得者、専業主婦、学生、失業者、年金生活者、代表権のない法人役員、代表権のある役員を辞任した者、が「創業者」に該当します。
 この「創業者」が会社設立の際に発起人(株式会社の場合)、あるいは社員として参加している必要があります。なお、「創業者」に該当しない個人が発起人や社員に含まれていたとしても、特例は適用されます。


3.「最低資本金規則の特例」と手続の変化

 では、実際に特例に基づいて最低資本金に満たない会社を設立する際に必要な手続は以前とどのように変わったのでしょうか。大きく分けて次の3つの違いがあります。

3.1 定款に解散事由を明記する必要がある

3.1.1 定款について

 会社の設立に欠かせないのが、定款の作成です。定款は、会社の組織形態、運営についての規則を定めたものです。定款の規定内容は絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項に分けられます。
 「絶対的記載事項」とは、定款に必ず記載しなければならない事項のことをいいます。「相対的記載事項」とは、記載することによって初めて、効力を有する事項のことをいいます。「任意的記載事項」とは、記載しなくとも効力を有する事項のことをいいます。


3.1.2 定款に解散事由を記載する必要がある

 前述のように、平成15年2月1日以降「最低資本金規制の特例」が適用され、最低資本金についての規制はなくなりました。ただし、最低資本金の免除は、5年間に限定されます。会社設立後5年以内に、株式会社であれば1,000万円、有限会社であれば300万円の資本金を用意することができなければ、その会社は解散ということになります。定款には相対的記載事項として、その旨を記載しなければなりません。

※5年以内に資本金が最低資本金に満たなくとも、会社の組織変更をすることによって会社は存続することが可能です。株式会社なら有限会社、合名会社、合資会社へ、有限会社なら株式会社、合名会社、合資会社に組織変更して登記をすれば、会社は存続することになります。一般的には株式会社・有限会社は合名会社・合資会社に組織変更をすることはできません。「最低資本金規制の特例」固有の仕組みです。また、株式会社が有限会社に組織変更するためには株主総会の特殊の決議(総株主の過半数+総株主の議決権の3分の2の以上の多数決)が必要ですが、確認株式会社の場合に、株主総会の特別決議総株主の過半数+出席株主の議決権の3分の2以上の賛成があれば有限会社への移行が認められることも「最低資本金規制の特例」固有の制度です(新事業創出促進法第10条の16))。

※募集設立の際には、株式申込書に新事業創出促進法第10条の18に基づいて解散する旨を記載する必要があります。


3.1.3 解散事由の記入例

【株式会社の場合】
第○条(解散事由)
 当会社は、商法第404条各号に掲げる事由のほか、新事業創出促進法第10条の18第1項の規定により、次に掲げる事由により解散する。
 1 資本額を1,000万円以上とする変更の登記又は有限会社、合名会社若しくは合資会社に組織を変更した場合にすべき登記の申請をしないで設立の日から5年を経過したこと
 2 新事業創出促進法第10条の2の規定により同法第10条第1項の確認を取り消されたこと

【有限会社の場合】
第○条(解散事由)
 当会社は、有限会社法第69条第1項各号に掲げる事由のほか、新事業創出促進法第10条の18第2項の規定により、次に掲げる事由により解散する。
 1 資本の総額を300万円以上とする変更の登記又は株式会社、合名会社若しくは合資会社に組織を変更した場合にすべき登記の申請をしないで設立の日から5年を経過したこと
 2 新事業創出促進法第10条の2の規定により同法第10条第1項の確認を取り消されたこと 


3.2 確認申請を行う必要がある

 「最低資本金規則の特例」に基づいて会社(確認会社)を設立する場合、経済産業局による確認を受ける必要があります。その際に必要な書類は次の4種類です。

(1)確認申請書
 経済産業省のサイトでダウンロードできる確認書類の書式です。
 http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form2.doc(ワード形式)
 http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form2.pdf(PDFファイル)

(2)新事業創出促進法第2条第2項第3号の創業者であることの誓約書
 確認申請書と同時に経済産業省のサイトでダウンロードすることができます。
 http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form3.doc(ワード形式)
 http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form3.pdf(PDFファイル)

(3)「創業者」であることを証明する書類
 自己が事業を営んでいない個人であることを証明するためには、@創業者であることの誓約書、A事業を営んでいない個人であることを示す書類(退職証明書、健康保険被保険者証の写し、非課税証明書など)が必要となり、確認申請書とともに提出することになります。
 創業者であることの誓約書の書式はこちら
 http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form3.doc(ワード形式)
 http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form3.pdf(PDF形式)

(4)公証人の認証を受けた定款の写し
 確認申請には公証人の認証を受けた定款の写しを持っていく必要があります。つまり、先に公証人役場において認証を受けて、設立登記を行う前に確認申請を行うことになります。

 確認申請の証明は後日送られてくることになります。


3.3 設立登記の際の手続の変化

(1)出資の払込保管証明書に関する特例

 払込保管証明書とは、会社設立に必要な資本金が会社の口座に振り込まれていることを証明する書類です。払込証明は、従来は「銀行が発行した払込明細書」により証明されることが条件とされていましたが、確認会社の場合には自作の払込証明書が認められます。書式は、経済産業省のサイトからダウンロードできます。
【株式会社】http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/k_shoumei.pdf
【有限会社】http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/y_shoumei.pdf

 登記申請する際にはこの払込保管証明書が必要ですが、あわせて@取引明細など、払込取引機関(銀行)が作成した書面、あるいはA払込口座の預金通帳のコピーのいずれかを提出する必要があります。

(2)会社登記申請書への確認申請の証明の添付と「その他の事項」

 「最低資本金規制の特例」を利用する場合、設立登記申請書に、返送されてきた確認申請の証明を添付することになります。その際、設立登記申請書の添付書類欄に添付資料として記載することが必要となります。

 また、利害関係者に解散事由を確認してもらうために、登記申請書の「その他の事項」欄に、解散事由について明記することが必要となります。


4.その他

4.1 現物出資・財産引受・事後成立における検査調査等の特例

 株式の出資は金銭によって行われるのが一般的ですが、不動産や動産の給付によって行うことも可能です(現物出資)。現物出資が行われる場合、検査役の調査を受けなければなりません。しかし、確認株式会社、確認有限会社についてはこの調査が免除されることになりました。現物出資される財産の価格が200万円以下となる確認株式会社、または60万円以下となる確認有限会社がこの対象となります。なお、財産引受(会社の設立を条件として特定の財産を譲り受けることを約束する契約)、事後成立(会社設立2年以内に、会社の設立前から存在する財産で、営業のために継続して使用する財産を譲り受ける契約を行うこと)の場合も同様です。

【現物出資・財産引受・事後成立における検査調査等の特例の適用対象】

確認株式会社  現物出資等の財産の価格が200万円を超えない
確認有限会社  現物出資等の財産の価格が60万円を超えない

4.2 配当制限

 通常、会社の配当可能利益は、純資産から「資本準備金等資本以外の要控除額」と「資本額」を控除した分となります。しかし、確認会社の場合、配当可能利益は、純資産から「資本準備金等資本以外の要控除額」と「本来の最低資本金に相当する額」を控除した分となります。そのため、通常の会社よりも配当可能利益が減ることになります。会社債権者保護の観点からこのような制限がなされました。

確認株式会社  「純資産」−(「資本準備金等資本以外の要控除額」+「最低資本金相当額・1,000万円」)
確認有限会社  「純資産」−(「資本準備金等資本以外の要控除額」+「最低資本金相当額・300万円」)


4.3 計算書類の提出義務

 確認株式会社・確認有限会社は確認会社である期間内は、営業年度ごとに、賃借対照表2通、損益計算書1通、利益処分案1通を本店所在地を管轄する経済産業局に提出しなければなりません。提出期限は各営業年度経過後3ヶ月以内です。

営業年度ごとに提出する必要のあるもの

賃借対照表 2通
損益計算書 1通
利益処分案 1通

4.4 「最低資本金規制の特例」の終了

  「最低資本金規制の特例」が終了する場合(@資本の最低資本金以上の増資、A合名会社への組織変更、B合併、C破産、Dその他の事由による解散など)、会社の本店所在地を管轄する経済産業局に届出をする必要があります。
書式:http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form7.doc(ワード形式)
http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/form7.pdf(PDF形式)


5.「最低資本金規制の特例」に関する情報
・経済産業省の「最低資本金規制の特例」に関するサイトです。
http://www.meti.go.jp/policy/mincap/
・経済産業省による「最低資本金規制の特例」に関するパンフレットです。
http://www.meti.go.jp/policy/mincap/downloadfiles/pamphlet.pdf