電子議事録への署名問題


会社関係書類の中には、貸借対照表、各種議事録、監査報告書など、必要関係者の署名が法律上要求されているものがある。

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上記書類が電磁的記録で作成された場合にも署名が必要となる。

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@              どのような署名が必要とされるのか?

商法第33条の2第2項の準用

「・・・貸借対照表ガ電磁的記録ヲ以テ作ラレタル場合ニ於ケル其ノ電磁的記録ニ記録セラレタル情報ニ付テハ作成者之ニ署名ニ代フル措置ニシテ法務省令ニ定ムルモノヲ執ルコトヲ要ス」

貸借対照表をはじめとして会計帳簿、損益計算書、営業報告書など会社関係書類は作成者

の署名が必要とされますが、これらの会社関係書類が電磁的記録によって作成された場合の

作成者の署名は商法第33条の2第2項では、法令省令に定めるもの(法務省令ニ定ムルモノ)

とされています。

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法務省令ニ定ムルモノ

 → 商法施行規則第5条

    「商法第三十三条ノ二第二項・・・に規定する法務省令で定める措置は、電子署名(電子署名法第二条第一項の電子署名)とする。」

そこで、法令省令(商法施行規則第5条)をみてみますと、会社関係書類が電磁的記録よ

って作成された場合の署名は、電子署名法における電子署名が必要と規定されています。具

体的には電子署名法第2条第1項の電子署名が必要とされています。

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電子署名(電子署名法第二条第一項の電子署名)

 「この法律において「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう

一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。

二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。」

電子署名法第2条には具体的にどのような電子署名を会社関係書類に使わなければならな

い、ということは規定していませんが、電子署名が、「署名」目的のものであり、電子署名

のされた情報(書類)が改ざんされていないかを確認できるものであれば良いという2つの

要件を満たしている電子署名は現在非対称鍵暗号方式しかありません。非対称鍵暗号方式の

みを電子署名とすると規定しなかったのは、将来的に新しい技術によって上記2つの要件を

満たす電子署名の方法が開発されたときのことを考慮したためです。

A              電子署名の種類と説明

(1)非対称鍵暗号方式

現在最も信用性の高い電子署名の方法として「デジタル署名」と言われる非対称鍵暗号(公開鍵暗号)方式があります。発信者は、自己の秘密鍵で暗号化されたメッセージを送信し、受信者は発信者の公開鍵でメッセージを複合することによって、そのメッセージが発信者によって作成されたと確認することができる方式のことをいいます。この方法により、メッセージが発信者によって作成されたことが証明され、内容が正しいもの(途中で改ざんされたものではない)であるかも確認することができます。非対称鍵暗号方式ではハッシュ関数()が利用されていて、メッセージが改ざんされていれば複合の際にまったく異なった文章となってしまうため、内容の正確性の確認にも優れています。なお、非対称鍵暗号方式にはRSA方式(Ron Rivest,Adi Shamir,Len Adelemanが1978年に開発した方式。それぞれの開発者の頭文字をとっている)、DSA方式(米国商務省標準化技術研究所の連邦情報処理標準:FIPSが発行)、ECDSA方式、ESIGN方式などがあります。

ハッシュ関数・・・ y=f(x)において、x(メッセージ)からy(メッセージダイジェスト:メッセージを小さなサイズの情報に圧縮したもの)を求めるのは簡単なのに対して、yからxを求めるのは事実上困難で、かつ異なるxから同一のyを生成するのが計算上不可能であるような関数のことを示します。(辛島睦・飯田耕一郎・小林善和 「Q&A電子署名法解説」P13参照)

(2)対称鍵暗号方式

対称鍵暗号方式は、発信者と受信者が共通鍵を当事者間のみで秘密に保有し、使用する方式です。共通鍵は暗号化、複合の共通の鍵として使われるところが非対称暗号方式と異なるところです。発信者は受信者に対して共通鍵を配信し、受信者は共通鍵で発信者によって暗号化されたメッセージを複合します。対称鍵暗号方式には、共通鍵を受信者に安全に配信することが必要とされる、不特定多数との通信の場合には通信相手ごとに共通鍵を変える必要がある、などの欠点があるため、非対称鍵暗号方式のほうが現在は有効な手段として支持を集めています。共通対称暗号方式には、DES方式、Rijndael方式があります。

B              認証機関

電子署名の信用性を高める(不正な電子署名を防ぐ)ために、第三者が公開鍵が送信者本人のものであることを証明し、電子証明書を発行する、電子署名の認証が必要とされます。発信者は認証機関に自己の公開鍵である旨の証明を求めると、認証機関によって電子証明書が発行されます。この(発信者の公開鍵が含まれる)電子証明書を受信者に配信し、受信者がその公開鍵でメッセージを複合できれば、そのメッセージは発信者によって作成されたものであるということが確認できます。また、受信者が自ら発信者の公開鍵であることを証明する電子証明書を入手して、発信者から送られてきたメッセージを複合すれば、そのメッセージが発信者によって電子署名されたものであると確認することができます。

この電子署名の認証によって、電磁的記録を受信した人が発信者本人によって電子署名がされたことが確認できます。また、秘密鍵が他人に渡ってしまった場合に、認証機関による公開鍵の証明を中止することができるため、他人によって不正使用されることを防ぐことができます。

C              商業登記法との関係

商業登記法第19条の2                   

「登記の申請書に添付すべき定款、議事録若しくは最終の貸借対照表が電磁的記録で作られているとき、または登記の申請書に添付すべき書面についてその作成に代えて電磁的記録の作成がされているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録(法務省令で定めるものに限る)を当該申請書に添付しなければならない。」

商業登記制度は取引の安全を図る、取引相手の会社の信頼性の高い情報を確認する、ある

いは登記を信頼して取引を行ったものに対して商法上の法的保護が与えられるなど、商行為

を行う上で重要な制度です。登記所に登記申請をする際には、登記の申請書に定款等の添付

が必要とされます。平成13年の商法改正によって添付される書類を電磁的記録によって提出

することが可能となりました。しかし、電磁的記録は法務省令によって定められた方法によ

って作成されなければならないとされました。

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法務省令で定めるものに限る

商業登記規則(平成14年改正)第36条3項

「法第19条の2の法務省令で定める電磁的記録は、法務大臣の指定する方式に従い、当該情報(議事録など)の作成者が33条の4に定める措置を講じたものでなければならない」

商法第19条の2を受けた法務省令は、申請書に添付される書類が電磁的記録によってなされ

る場合は、さらに商業登記法第33条の4に定める方法による電子署名が施されている必要が

あると規定しています。

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33条の4に定める措置を講じたもの

商業登記規則(平成14年改正)第33条の4

「電磁的記録に記録することができる情報が印鑑提出者(印鑑を登記所に提出した者)の作成に係るものであることを示すために講ずる措置は、電磁的記録に記録することができる情報に、工業標準化法に基づく日本工業規格X5731-8の附属書Dに適合する方法であって、同附属書に定めるnの長さの値が1214ビット又は2418ビットであるものを講ずる措置とする」

商業登記法第33条の4は、登記所に提出される電磁的記録はJIS X5731-8の附属書Dに

適合する必要があると規定していますが、JIS X5731-8の附属書DはRSA非対称鍵暗号方式

について記載しています。よって、登記所に提出される電子的記録には、RSA非対称鍵暗号

方式による電子署名が施されている必要があるということになります。

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結論

登記の申請者に添付すべき定款、議事録若しくは最終の貸借対照表が電磁的記録で作られているとき、または登記の申請書に添付すべき書面についてその作成に代えて電磁的記録の作成がされているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を記録した電磁的記録(電磁的記録に記録することができる情報が印鑑提出者の作成に係るものであることを示すために、工業標準化法に基づく日本工業規格X5731-8の附属書Dに適合する方法であって、同附属書に定めるnの長さの値が1214ビット又は2418ビットであるものを講ずる措置がとられているもの)を当該申請書に添付しなければならない。」

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なお、前述のように電子署名には電子署名の認証(電子証明書の発行)が行われることが望まれます。これは商業登記の際の電子署名にも同じことが言えます。そこで、商業登記規則第36条第4項で、電子証明書を記録することが義務付けられています

 電子証明書については、次の4つの電子証明書の方式が認められています。

@)商業規則第33条の8第2項に規定する電子証明書

A)指定公証人の行う電磁的記録に関する事務に関する省令第3条第1項に規定する指定

公証人電子証明書

  B)法務大臣指定の電子署名法第4条第1項の認定を受けた特定認証業務の用に供するた

めに作成された電子書名法施行規則第4条第1項に規定する電子証明書

  C)その他法務大臣の指定する電子証明書

このように電子証明書の方式が分けられているのは、それぞれの電子署名方式が異なり、それに対応した電子証明書が使い分けられる必要があるからです。

電子署名が1人である場合

 → @)、B)の電子証明書(電子署名方式)が必要ということになります。

     = PKCS#7署名ファイルが利用されます。電子署名前のファイルの形式はテキスト

形式、PDF形式、XML形式

電子署名が複数人の場合

 → A)の電子証明書(電子署名方式)が必要ということになります。

     = 電子私署証書ファイルは、平成13年法務省告示第565号の第6の4の(4)の

項番9から14までの形式(http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI24/m4.html

とされます。最大10人まで連名で電子署名を行うことが可能です。

C)のその他法務大臣の指定する電子証明書

 → アドビシステム社のPDFのPKCS#7に準拠する方式が該当します。

   複数人が電子署名することが可能です。

          *         *         *

D              会社関係書類の閲覧

閲覧及び謄写の請求が可能なもの:株主総会議事録、取締役会議事録、株主名簿、社債原簿など

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商法第260条の4第6項2号、第263条3項2号

 = 電磁的記録に記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したものを閲覧・謄写する請求が認められます。

※法務省令で定める方法・・・「紙面又は出力装置の映像面に表示する方法」が検討されています

※謄写・・・電磁的記録を書面に出力することか、ディスク自体を請求できることかは定かではありません。

E              株主総会召集通知の電子化

株主総会の召集通知を電磁的方法によって行うことが可能になりました。

ただし、(1)相手方の承諾、(2)通知の方法、(3)参考書類の送付、に一定の条件が必要とされます。

(1)相手方の承諾

 株主総会召集通知を行った場合、

@     あらかじめ

A     当該株主に対し電磁的方法の種類・内容を提示し、

B     書面または電磁的方法によって承諾を受けなければならない

※すでに承諾したかを問わず、電子的方法による通知を受けない旨の申し出が可能です。
※電磁的方法による召集通知に承諾した人には、電磁的方法による議決権行使が自動的に承諾されます(正当な事由があれば会社は電磁的方法による議決権行使を拒めます)

(2)通知の方法

株主の招集通知を電磁方法によって行う場合は、法務省令で定める方法によらなければなりません。法令省令で定める方法とは:

@     eメールの送信による方法、ホームページの閲覧による方法

A     フロッピーディスク等の交付による方法

     のうちから代表取締役が選定することになります。

(3)参考書類の送付

会社が議決権行使を書面で行うことを認めた場合でも、あるいは電磁的方法による議決権行使を認めた場合でも、参考書類に記載すべき情報を電磁的方法によって提供することが可能です(ただし、株主が電磁的方法による召集通知を承諾したことが前提です)。

:商法第139条の2第2項、第239条の2第3項、第139条の3第2項、第139条の2第3項

※召集通知に添付すべき計算書類・監査報告書の謄本

召集通知を書面で行う場合でも、電磁的記録の情報の内容を電磁的方法で提供することが可能です。

(株主からの請求によっては、電磁的記録上の記録を書面で交付しなければなりません)